織田廣喜聞書 絵筆とリラと 松尾孝司著(読書録)

代表の独り言

GWの休暇の二日間。ふと、心を揺さぶられるような絵に出会いたくなった。

以前、広島を訪れた際、美術館で目にしたゴッホの晩年の作品『ドービニーの庭』が、強く心に残っている。鮮やかな緑の風景——そのわずか二週間後に命を絶つとは思えないほど、明るく、美しく、生命力に満ちている。まるで、最後の気力を振り絞り、内に残る太陽のようなエネルギーをすべてキャンバスにぶつけたかのようだ。ふだん絵画を見てもあまり感情を動かされない私の心が、そのとき、ぎゅっと締めつけられた。

あのような作品に、もう一度どこかで出会えないだろうか——。そう思い、ネットで調べてみた。すると、筑豊に織田廣喜という画家の名を冠した公立美術館があることを知る。

織田氏は、決して恵まれた境遇ではなかったが、妻のリラさんと二人三脚で画業に励み、やがて人気画家となり、二科会の理事長も務めたという。そして、後年、リラさんが脳出血で倒れてからも、彼は介護をしながら作品を描き続けた。

館のパンフレットに掲載されていたのは、若き日のリラさんの姿だった。

「行かねばならない」と感じ、私は愛車の原付きバイクにまたがり、美術館のある嘉麻市碓井町へと向かった。

最初に展示されていた作品『少女』を前に、私は震えた。いや、正確には、ひきつったような衝撃を受けた。そこに描かれていたのは“少女”ではなかった。まさしく、若き日のリラさん——彼の人生を共に歩んだ妻その人だ。あふれるような深い愛情が絵から滲み出し、それが心を震わせたのだと思う。

織田氏とリラさんの人生に強く惹かれた私は、その足で画集とこの本を購入した。本の冒頭と巻末には、リラさんへの感謝の言葉が静かに綴られている。